※絵をよく御覧頂いてからお読み下さい。
真面目だけが取り得の緑川課長に部長の赤谷は言った。
「君は何をやらせてもそつなくこなすが、もっと思い切った事が
出来んとだめだ。もっと主張しなきゃ!自分のカラーをもってさ。」
次の日、課長は何を勘違いしたのか全身を緑に塗ってやって
来た。「き・きみはバカにしとんのかぁーー!!」
赤谷部長は顔を真赤にして怒鳴るとそのまま床にぶっ倒れた。
そして二度と職場に戻っては来なかった。
そんなこんなで何故か部長に昇進した緑川氏。
これも赤谷部長の忠告通り自分のカラーを持ったからだ。
そう信じた緑川部長はそれから毎日全身を緑に塗っている。
みなの驚きが薄れ、呆れと諦めに変わってきた頃
1つの事件が起きた。
「もぉー信じらんなぁい!触ったでしょ!どうしてくれるんですか!」同僚のキョウコが叫び散らしている。何でも、お気に入りの白いバッグに緑の染みが付いており、それが緑川部長の仕業だと言うのだ。
「いや、すまん。触った覚えはないが、僕のカラーが迷惑を。
僕のカラーが・・・」
「僕のカラー」を連呼し何度も土下座する緑川部長の背中を
見ながらふと思った。あれ、こないだ僕とキョウコが公園で
イチャイチャしてた時に出来た染みではないかと…。
明くる朝、キョウコは左手に新品の真赤なバッグを提げて来た。
「おはよっ。」
俺もワルだが、こいつはもっとワルだと思った。
きっと弁償させたに違いない。
それから暫くして僕は会社を辞めた。あの時正直に言えなかった
部長への後ろめたさもあるが、上司が人工的に緑色だという事が
どうしても理解できなかったからだ。
再就職が決まり、街路樹の緑が映える頃、駅前で緑川部長を
見かけた。あの頃よく聞かれていた言葉を思い出した。
「どうだい?俺は目に優しいだろ?」
生い茂る木々を背にせかせかと歩く部長の緑は
僕の目に哀しかった。